美容室 nicori / 大坪香織
ノーマライゼーションという言葉が浸透している時代の中でも、その理念を体現している人や組織はまだまだ少ないのかもしれない。「長年もどかしさを感じていた」と話すのは、この冬〈美容室nicori〉をオープンする大坪香織さん。18歳から美容業界に入り、勤め先のヘアサロンでじっと座っていられない子どもやそのために次の予約をためらう親たちを目の当たりにして、「どんな人でも落ち着いた気持ちで施術を受けられるようなサポートをしたい」という思いを抱いてきた。
「この先の美容人生の中で自分なりに何かできないか?」と模索する中、ひょんなことからすでに取り組みを始めていた丹生川の美容室〈かみゆい〉と支援事業所〈てとら〉と出会い、3年前から「チャレンジカット」の活動をスタートさせたという。これは、ドライヤーやバリカンの音でパニックを起こしたりする子どもたちが、ゆくゆくは自分の行きたいお店や親の行きつけのお店へ一緒に行けるように練習する機会をつくる取り組みで、これまでも〈かみゆい〉など美容室で行う場合と、〈てとら〉や自宅などへの訪問美容とを使い分けて取り組んできた。
美容室へ行くことに困難を覚える子と言っても、実にさまざまなケースがある。「親御さんが抱っこしたり近くにいたりすれば、私だけでヘアカットが出来ることもあれば、介護士さんや事業所のスタッフ複数名と連携して行うこともあります」。一人ひとりの発達や感じ方など状態に合わせて、使う道具選びや環境を考え、合間に気持ちを落ち着けるクールダウンの時間を取り入れながら手早く施術する。数年続けてきた中で1人でイスに座れるようになり、チャレンジカットを卒業する子たちも出てきた。「『お店へカットしに行ってきたよ』と卒業しても報告してくれる人が多く、その子の親もよろこんでいる姿がうれしいです。
もし合わないなと思ったらまたチャレンジカットに戻ってきてリトライしてもいい」と話す大坪さん。3年が経ち、自分の場所を持たない身軽さはありつつも、場所を借りての活動に難しさも見えきた。1月にオープンする〈美容室nicori〉は通常の個人サロンでもありつつ、チャレンジカットをメニューに加えた形で運営していくのだという。
「お子さんも親御さんもリラックスしてカットできる空間を作る予定です。今まで通り〈てとら〉さんや、高齢者などの出向くことが難しい方には、ご自宅への訪問美容も続けていきます。この活動が気になる理美容師や介護士、障がい者支援経験者がいたらぜひ声をかけて欲しい。これまでの知識や経験をぜひシェアしたいですね」。自身の新たな門出はもちろん、〈かみゆい〉という先人の存在に背中を押された大坪さんのように、こうした担い手が増えていくことへ期待を寄せたい。


















